2011年08月08日

第15話 黒猫の恩返し -6-

目をこらして見てみると………赤い影は、すぐそこまで迫ってきていた!
外れたっ!?

もうっ! イヤっ! 怖い!
あたしが思わず目をつぶり、顔を手で覆っていると………。

「巴、どうしたの? しっかりして!!」

あれ? どこかで聞いたことのある声。

目を開けて見てみると、姉の睦が、あたしの体を抱きしめていた。川の水は膝下あたりまで下がっている。いつの間にか、水の浅い位置に移動していたらしい。

「ね、姉さん…?」
「私の姿は見えてる? うん、大丈夫みたいね」

周りを見回すと、明日香さんと里桜さんも居る。あれ? 一体どうなっているんだろう?

「もう! アンタったら…。もうちょっとで、地獄に連れて行かれちゃうところだったのよ?」と、睦姉さん。
「ここ、三途の川らしいですから」と、明日香さん。
「その若さで死んじゃうのは、まだ早すぎるって」と、里桜さん。

うわ、あたしったら、何をやっていたのかしら。
あ、そうだ。タマちゃんに連れられてきたんだった。タマちゃんは?

「ね、姉さん! 黒猫! 黒猫は見なかった!?」

あたしがそう言うと、姉さんは、「あー、アレね」と振り返った。
そこには、黒猫の首根っこを掴んだ小さな女の子が、冷ややかな目で黒猫を見ていた。

「ちがう、ちがうんだみゃー! 地獄は本当にボクの生まれ故郷だみゃー。本当に、本当に歓迎しようとしていたんだみゃー」

と、何やら慌てて黒猫が言い訳を試みていた。が、女の子は、懐から取り出した紙をくるくるっとすばやく丸めると、黒猫の首にあっという間に巻き付ける。

「この黒猫、尻尾が3本生えているじゃろう。コイツは『猫又』と言ってのぉ。まったく、長生きするとロクなことをしないようじゃな…」

あの話し方…聞いたことがある。あの女の子は以前、楓に憑依して現れたおるるさんかしら? 姉さんから聞いた話のとおりの格好をしてるし。よく見てみると、赤い石が宙に浮いていて、その上につま先で立っているようだ。
おるるさんが黒猫の首根っこを持ったまま、手を左右に激しく揺すっている。

「みゃー! みゃー! 船酔いするみゃー! やめるんだみゃー!」
「どうやら、前の飼い主に飽きて、新しい飼い主を探していたみたいじゃな。そこで、おぬしに予想外にやさしくされて、ヘンなデキ心でも沸いたのじゃろう」

ふぅ。そうか、弥生さんの飼っていた猫……じゃなくて、猫又は、死んだのではなくて、死んだふりをしていたというわけか。

「そろそろボクと本心で語り合える相手が欲しかったみゃー! だから、ネコ耳みたいな形でくっついて、お姉さんみたいに妖怪としてのボクを分かってくれる人を探していたんだみゃー!」

猫又も、尻尾を偽装して1本に見えるようにすれば、周囲からはタダの猫として認識されるようになる。ある時は普通の黒猫として生活し、そして妖怪猫又として生活することもある、なんとも奇妙な存在なわけだ。

睦姉さんが、猫又の方に歩いて行く。そして額に思いっきりデコピンを食らわせていた。

ピシーンッ!「あ痛〜〜〜〜〜!」

「妹にまとわりつく悪い虫は、例え妖怪だろうと猫だろうと容赦しないわ。この代償は高く付くわよ。くっくっく……」
「ひぃぃぃぃぃ! お姉さん助けてみゃー! この人、顔が醜悪で怖いですみゃー! ボクのこと食おうとしているんだみゃー!」
「誰が醜悪だぁぁぁぁぁぁ!」
「みゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

---

ふと気付くと、団地の前に戻ってきていた。
あたしは仰向けに寝かされて、緑のお札と赤い石を胸の上に乗せられていた。そうか、あの変な物体の匂いを嗅がされて、あたしはここに倒れていたというわけか。

「お姉ちゃん、大丈夫だった?」

楓が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。楓はここでお留守番をしていたというわけか。
遅れて、睦姉さん、明日香さん、里桜さんの3人が戻ってきた。おるるさんは……この赤い石の中か。

「私たち4人がここを通りかかったら、いきなり巴が倒れているんだもん、びっくりしちゃった」と睦姉さん。
「睦お姉ちゃんったら、取り乱しちゃって、もう大変だったんだから」と楓。
「コラッ! 余計なことを言うなっ!」と、慌てる睦姉さん。

「ああ、仲の良い姉妹愛ね」と明日香さん。
「そうね。あたしたちみたいに」と、明日香さんの後ろから抱きつく里桜さん。
「ぎゃー!」と叫び出す明日香さん。

その後、猫又「タマちゃん」は、神緒家の……主に、あたし付きの「式神」として、神緒家に軟禁生活することになった。
ちなみに、この、首に巻き付けられた紙は、あたしが念じると締まるんだそうだ。まるで、どこかのお猿さんの頭にはめられた、輪っかみたいだ。

-おしまい-

posted by ノッチ at 16:11| 第15話 黒猫の恩返し